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第1章

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第1章

「冴島くん、この資料を15時までに纏めて会議室へ持ってきてくれ」

月末、納品書の整理を終えた私が次の仕事に取り掛かろうと別の資料を手にしかけたその時、課長の岸本さんにそう声を掛けられた。

「はい、分かりました」

差し出された資料を受け取ると、彼は周りに気付かれない様私に微笑みかけてくるけれど、私はそれに応えずすぐに視線を目の前にあるノートパソコンへ移した。

岸本課長が自分のデスクに戻るのと同時に私は手渡された資料を1枚捲(めく)る。
と、そこには付箋が貼ってあり、『今夜、いつもの場所で』と書かれていた。

付箋は勿論岸本課長が貼った物。私はそれを剥がして足元に置いてあるゴミ箱へ放り込み、何事もなかったかの様にカタカタとキーボードを叩きながら会議資料を作り始めた。


私は冴島(さえじま) 紗羅(さら)。27歳。大手食品メーカーの営業事務として配属されて早5年、ひたすら真面目に働いていた。
洒落っ気のない私には浮いた話は1つもなく、周りから見た私というのは、とにかくつまらない人間だと思う。

だけど、そんな私には秘密がある。

それは――社内でも人気の岸本課長と親密な関係にある事だ。

岸本(きしもと) 篤宏(あつひろ)。35歳。営業部の課長。
格好良くて仕事が出来、上司部下共に信頼のある課長は社内で人気が高い。

そんな彼は3年前に総務部のマドンナと言われていた女性と結婚し、娘が1人いる。

信頼も厚く見るからに誠実そうな岸本課長が不倫なんて、奥さんや職場の人々は夢にも思わないだろう。

岸本課長はどうだか分からないけれど、私自身いけない事をしているという自覚はあるし、このままでいい訳ない事も分かっている。

けれど、私と彼の関係は1年前も前から始まっていて、会う度、身体を重ねる度、互いの温もりの心地良さに依存していってしまう。

依存し合った結果、私達はより深く繋がり、抜け出す事が出来なくなり、更に互いを求めていく。


そして今日もまた、
『いつもの場所』で一夜を共にして愛を確かめ合うのだ。

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