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鬼の子

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鬼の子


 甲信越地方の南側位置する山々の谷間に沿うようにして点在する民家のひとつが母・喜枝(きえ)の実家だった。

 系図を遡れば、聞いたこともない名に辿り着く。
 元々は土着民族で現在の一般的な日本人の系統とは異なるらしい。

 由乃(よしの)は、洗濯機のパネルのスイッチを押した。
 最初こそは静かに回り始めるが段々と揺れが激しくなり、定位置からボディーが横ずれし始めるくらいにまで発展する。

 まさに昭和の時代、開発されたばかりの頃の機器のようだが、これは平成生まれ、全自動で乾燥機能までついた某有名メーカー出身だ。

 「ピーッ」という電子音と同時に先ほどから何度もエラーが出て止まるのがその証拠だが、洗い始めたのは一時間も前で未だに<すすぎ>まで辿り着いていない。



「もう、何回目? いい加減に買い換えたらどうなの?」



 蹴り飛ばしたい衝動を堪え、停止しないことを祈りながら閉じた蓋の上の円い小窓から中の様子を窺う。



「あぁ、それね」



 下腹に響き、じんわりとした熱を生じさせるような低音の甘艶ボイスに振り返る。
 ピタリと背中にくっつけられた身体は半裸で耳元に寄るその顔は、煽情的な容貌だ。
 顎にかけて繋がるなだらかなラインに唇を押し当てられる。

 由乃は「おはよ」と言葉で誤魔化しながら、背の中心くねらせるようにモゾモゾと上体を動かした。


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