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一九九七年十月。
冷たい雨の降る夜だった。
車から降り立った新田慶吾(にったけいご)の顔や肩に、容赦なく雨が打ちつける。

「先輩」

新田を待っていた久保が小走りに駆け寄ってきて傘を差し出した。
途端にバラバラと大粒の雨がビニール傘に跳ね返った。
午前零時半過ぎ。
新宿中央署からさほど遠くない西新宿区成子天神下交差点付近は今、騒然としていた。
真っ先に目に飛び込んできたのは、無残にもひしゃげた乗用車だ。

「こりゃあ酷いな」
「ブレーキ痕はこれからですが、ぶつかる直前まで相当のスピードが出てたんじゃないかって鑑識の話です」

メルセデスのSクラス。
シルバーの車体は電柱に激突し、ボンネットはもちろんのこと、フロントフェンダーからまるで巨人が半分に折り曲げたかのようにつぶれていた。
事故現場を囲むようにパトカーや捜査車両のライトが照らされ、黒く濡れたアスファルトの路面には赤色灯が反射している。
あちこちから白い靄のようなものが立ち上っているのは、鑑識係や捜査員たちから吐き出される息だ。

「搭乗者は?」
「運転手百目鬼信也(どうめきしんや)。同乗者は妻凌子(りょうこ)で医科大学病院に搬送されました」
「百目鬼?」

新田は眉を顰めた。

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