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当日: 23時27分 中盤戦、ある男女の死

そこは子供服の店だった。先ほど通りかかった店よりは少し広さがある。俺はどこから迫ってくるか分からない影に怯え、そこに飛び込んだ。

幸いにも、子供服に紛れて隠れられるだけのスペースはなく、試着カーテンも全て開かれていたため、誰もいない事が数秒で確信出来た。

「ID:28 サキュ538様、脱落。クリティカルポイント、頸部圧迫による窒息死」
また一人死んだのか…。脱落という言葉のすぐ後に続く死というワードに俺はうなだれた。

三つの試着カーテンを全て閉めると、その中の一つに隠れてしゃがみこむとすぐ、俺は端末を開いた。ここに来て死のペースが明らかに上がっている。原因は金をちらつかせた特殊ルール追加のせいなのか?それとも、他者を信じられなくなった疑心暗鬼の塊に誰もが心を侵されたからなのか?
こうなると、この狂った祭りが終わるまで身を潜める事しか出来ない、そう本能的に悟った。
最悪、タイムアップまで誰ともエンカウントしなければ、生きて帰る事が出来る。

地獄絵図だった。命乞いをしている人間を追い込むように鈍器で叩いていたあれは・・悪魔じゃないのか?人間とは思えない。何故ならその人物は、返り血を浴びながら至上の快楽を得たような恍惚の表情で瀕死の人間を叩き続けていたからだ。

その時、隠れていた試着カーテンの外にゆらりと影が映った。
 
誰か来やがった。
俺は息を潜めた。

頼む、いなくなってくれ!
頼む、頼む、頼む、頼む、頼む!!

「……いた」
「ひぃ!」

サッ、とカーテンを開けたその人物は、暗がりでほとんど顔が見えなかったが、確かに美人だと瞬間的に俺に思わせた。
「あの…その」

大振りの包丁が、水滴のようなものを垂らしながらその美人の手に握られていた。
もしかしたら一緒に隠れてやり過ごせるかも、なんていう甘い考えを持ったのが間違いだった。

よく見たら、その女の目は不思議とこの時間を楽しんでいる幼子のような無邪気な目だった。それを認識した瞬間、俺の思考を司る部分に包丁が無遠慮に入りこんできたのだが、その事を感覚的に捉える事は、もう俺には出来ないみたいだった。
ただ一つ、瞬間的に先ほど考えていた事を思い出した。
殺しのペースが加速している理由、それはきっと目の前の女のような、暴力に魅せられた人間のタガが外れたからなのだろう。

脳から血とも別のものとも知らぬ何かを垂れ流しながらビクンビクン、と痙攣しながら静かに死に逝く男を見下ろしながらその女はフフ、と少し笑った。左手には小ぶりな端末が握られていて、そこには複数の緑色の点が表示されていた。
「こんなアイテム持ってたら…あたし最強じゃん。このまま全員、殺しち」
その瞬間、鋭い銃声が響いた。女が振り返ったが、逆光のせいで恐らく拳銃のようなものだとしか想像するしかないその元となるモノが入りこんだ場所が悪く、瞬間的に彼女は崩れ落ちた。

ゴポッ。

首から音を立てて漏れ出る血をかき分けて、その人物は女が恍惚の表情で見つめていた端末を彼女の手からもぎ取ろうとした。
「いぃっぃぃぃいぃぃ」
「…!」
喉に鉛玉が貫通した女は、止まりかけた命を灯の最後のひと絞りを、手に握った端末を離さずに自分を撃った人物に向ける事に使った。

既にぼやけてきた視界の中、電灯に照らされたその顔を見て
「…あ、ああ‥‥‥あああぁぁあ」
女は絶句した。

怒りと悲しみと…そして裏切りが彼女を襲った。

「なん…で」

やっと言葉が出た。
だがそれに相手は返答せず、持ちうる限りの絶望を与えられた、間もなく死を迎える女の眼前に、もう一度、ダメ押しのように銃口を向けただけだった。

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